小児期・青年期発症の急性神経疾患に対する回復期のリハビリテーション
大人を対象にしたリハビリテーションと、子どもを対象にしたリハビリテーションでは、実施内容や取り入れるべきケアが異なります。発症原因やそれぞれの病状、そして一人ひとりの将来に応じた適切なリハビリテーションの提供が必要です。
ボバース記念病院では、小児期・青年期発症の急性神経疾患に特化した回復期の集中リハビリテーションを提供しています。一人ひとりに向き合ったリハビリテーションと、本人はもちろんのことご家族を含む心のケアを重視しています。
このページでは小児向けに必要なリハビリテーションや、当院で実施している取り組みを発症原因ごとにご紹介します。
小児に特化したリハビリテーション
子どもが大人と違うところはどこでしょうか?
子どもは身体が成長します。
力も強くなってきます。そのための栄養も豊富に必要です。成長を見越したリハビリテーションや練習メニューの提供、装具や器機類の設定、適切な栄養管理が大切です。
子どもは学校やこども園に通います。
リハビリテーションは病院だけで完結するものではありません。学校や家庭でいかに必要なケアや練習を行うかが将来を左右します。
また、障がいが残った場合、学習のために学校で様々な配慮がいります。復学・復園に向けて、退院までに病院から多くのことを具体的に伝えなければなりません。
将来の進路までを考えて、子どもにあった教育を一緒に考えられる体制が必要です。
子どもは一人でいられません。
子ども病棟で同じような病気を持ったお友達と過ごすことは、子どもにとって安心と楽しみを与えてくれます。幼児には保育と遊びの時間が、学童には勉強の時間がいります。ダメージを受け容れるために心理士の助けが必要なことも多いです。
その他にも、入院のストレスを緩和するために様々な工夫が必要です。
そして、子どもが最も力をつけるのは、「遊び」を通じたリハビリテーションです。
たとえば、大人のように「10回スクワットをして」と言っても、子どもにはなかなかできません。しかし、リハビリテーションを遊びやダンスのように工夫することで必要な練習が楽しくできます。
お年寄りの方が多い大人の回復期リハビリテーション病棟では、このような子どもの特性に合わせた対応がスムーズにはできません。また、長期的な治療戦略、配慮や工夫といったものは実際に多くの子どもさんを長くフォローする中で積み上げられてくるものです。
ボバース記念病院の特長
当院の小児部門は(森之宮病院にあった頃も含めて)最高20年のフォローを経験しています。脳のダメージの場所や範囲、受傷時の年齢から将来学校や成人後にどのような問題が出てくるかを推測して、必要なリハビリテーションと家庭・学校への指導を提供します。
早期の集中リハビリテーション
リハビリテーションは全身状態が落ち着いた後、できるだけ早く始めることが大切です。
急性期病棟でも身体に対するリハビリテーションは行えますが、家庭や学校、社会に復帰するための総合的な関わりは、時間をかけてリハビリテーションに特化した病棟で行う必要があります。
そこで重要なのが、急性期病院とリハビリテーション病院との連携です。
大人では多くの方が脳卒中を発症されるため、脳神経内科・外科と回復期リハビリテーション病院との連携がスムーズに行われる仕組みができています。しかし子どもでは、急性神経疾患が少なく、また、回復期のリハビリテーションを行える施設も数少ないため、決まった連携の仕組みがありません。
ボバース記念病院の特長
ボバース記念病院では、ご家族や急性期病院から直接ご相談を受け付けています。
早期の転院が必要な場合には迅速に対応しています。病状が落ち着かず、すぐにリハビリテーションができない状態でも、ご家族や主治医に将来に向けたアドバイスをお伝えします。
子どもでは特にご家族の希望も含めてていねいに状況を把握する必要があるため、できるだけ顔を合わせて連携するようにしています。
近畿圏ならばこちらから入院中の急性期病院を訪問してご相談するなど、柔軟な対応を心がけています。
小児神経科でリハビリテーションに関わった子どもの数(過去5年間)
原因疾患 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
初診 | 脳炎・脳症 | 27 | 19 | 26 | 21 | 16 |
頭部外傷 | 7 | 8 | 3 | 3 | 7 | |
脳血管障害 | 4 | 6 | 4 | 5 | 2 | |
入院 | 脳炎・脳症 | 30 | 30 | 25 | 34 | 39 |
頭部外傷 | 5 | 3 | 3 | 5 | 5 | |
脳血管障害 | 3 | 4 | 6 | 4 | 4 |
入院中・退院後のケア
入院中は、大人の回復期リハビリテーション病棟と同様に1日2時間の理学療法、作業療法を行い、必要に応じて言語療法も行います。
リハビリテーションの時間以外も病棟生活の中で機能回復のための様々な活動を提供します。たとえば、改造箸を使った食事の練習や、歩行器歩行の練習、着替えや入浴の練習などです。
幼児には保育の時間があり、学童には訪問学習の時間があります。心の傷には看護師がしっかりと寄り添い、必要に応じて臨床心理士がケアをします。
重度の運動障がいがある場合は、緊張を緩和するための内服薬の調整やボツリヌス毒素療法、髄腔内バクロフェン注入療法も必要に応じて行えます。変形や拘縮に対しては小児整形外科で手術や装具療法を行います。
栄養管理やてんかんの治療にも積極的に関わっています。
退院後は外来診察やリハビリテーションを通じて成長を支えます。特に日常的に関わる家庭や学校での対応が将来を左右しますので、定期的にアドバイスを提供します。
脳炎・脳症後遺症のリハビリテーション
急性脳炎・脳症は日本人に多い病気です。特に乳幼児に多く、いくつかの病型に分けられます。
最も多いのは痙攣重積型脳症(二相性脳症)と言われるもので、突然の大きな痙攣に続いて数日後から小さな発作が群発するのが特徴です。その他にも急性壊死性脳症、出血性ショック脳症など重篤な脳症があります。いずれも感染に誘発されることが多いです。
それぞれの病型によって残る症状や重症度は違います。
痙攣重積型脳症では、特徴的な経過に合わせてそれぞれの時期に必要な対処をしなければなりません。発症後半年程度で将来の運動機能が予測できるので、必要な療育サービスや装具の手配を始めます。
回復期にはてんかん発作がしばしば出現し、投薬が必要になります。しかし、てんかんの薬には眠気を強めたり筋力を弱めたりする副作用があり、運動機能を回復させながら発作を抑えるために薬の種類や量を細やかに調整しなければなりません。
ボバース記念病院の特長
当院では200例以上の経験を基に、脳症後のリハビリテーションについて2016年の国際学会(Annual Meeting of Infantile Seizure Society)で講演を行いました。その内容は国際的なテキストとして出版された本に含まれています。(Acute Encephalopathy and Encephalitis in Infancy and Its Related Disorders. Elsevier, 2018)
低酸素性虚血性脳症後遺症のリハビリテーション
低酸素性虚血性脳症は乳児・幼児に多く、原因としては窒息や溺水、そして心臓などの大きな手術に伴うものが挙げられます。
脳のダメージの範囲に応じて回復できる程度が異なります。また、乳児(1歳未満)の方が重い障がいを持つ傾向があります。
特に広範囲の脳のダメージを負った方は重い運動障がいが現れ、急性期を脱するまでに二次障がい(拘縮や変形、脱臼など)が出現することがあります。早くから整形外科医やリハビリテーション医と連携して姿勢設定や投薬、リハビリテーションを行って対処する必要があります。
脳のダメージが少ない場合でも発症後1年以内に歩けるようにならなければ、将来的にも歩けない恐れが高いです。また、知的障がいや視覚認知障がいを残すことが多いことが知られていて、就学後も適切な援助が受けられるように学校への指導が必要です。
脳梗塞、脳出血のリハビリテーション
子どもでは、もやもや病、スタージ・ウェーバー症候群、脳動静脈奇形などの基礎疾患に伴って脳梗塞や脳出血が起こります。また、水痘後などの血管炎、血液の凝固異常、コラーゲンの代謝異常などの稀な原因が見つかることもあり、さらに幼児では軽い外傷によって誘発されるものがあります。
片方の大脳に起こることが多く、片麻痺、言語障がい、視覚障がいが生じます。脳の浮腫(むくみ)が強く両側の脳にダメージが及ぶと重度の障がいを残します。
過去の報告では、運動障がいは90%に残存し、片麻痺が約70%を占めると言われています。また、高次脳機能障がいが約80%の子どもに残り、学校や卒業後の職場で問題になります。
早期には歩行獲得のための理学療法と麻痺手の機能を高める作業療法が、その後は高次脳機能障がいへの対応が重要です。
頭部外傷のリハビリテーション
頭部外傷は交通事故や転落によるものが多く、活発な男の子に多い傾向があります。
骨折や内臓の損傷を伴って状態が安定するまでに時間がかかることが多いため、早期の転院が難しいことがあります。
重症の場合は早くから身体の拘縮や変形が進むため、緊張の緩め方などを相談しながら転院の準備を進めます。
軽症の場合も広汎性(びまん性)軸索損傷がある場合は高次脳機能障がいを残します。記憶障がい、不注意、視覚認知障がい、衝動性など、見た目にはわかりにくい障がいが多く、周りから理解されずに誤解されたり仲間外れにされたりすることがあります。
発達検査や心理検査によって問題点を明らかにして、学習や学校生活がスムーズに送れるよう周囲にアドバイスする必要があります。
関連リンク
各疾患の特徴とリハビリテーション(医療者向け)
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